「下取り価格って、どうやって決めているのかな?」
「査定のとき、営業マンはタブレットを持って何を見ているの?」
「そもそも営業マンって、査定の資格を持っているの?」
こんにちは。元カーディーラー営業マンです。ディーラーで下取り査定をお願いしたとき、あの価格が誰に、どういう経路で決められているのか、気になったことはありませんか?場合によっては何万円、もしかしたら何十万円も変わるのが下取り価格です。今回は35年以上の現場経験をもとに、この「下取り価格の謎」を徹底解説します。
先に結論を言うと、ディーラーの査定は「査定士の感覚」で決まっているわけではありません。非常にシステマチックで客観的なルールにのっとって行われています。仕組みを知っておくことが、納得のいく下取り価格への第一歩です。
査定は「引き算」で決まる|全国統一のJAAI基準
日本のカーディーラーや多くの車関連企業は、JAAI(一般財団法人 日本自動車査定協会)が定めた全国統一の査定基準を採用しています。査定は基本的に「減点方式(標準状態からの引き算)」です。
最終査定額 = 基本価格 − 減点項目(キズ、修復歴など) + 加点項目(オプションなど)
スタートラインとなる「標準状態」
JAAIでは、査定の基準となる「標準状態の車」を次のように定義しています。
- 外装・内装が無傷であること
- エンジンや足回りに支障がないこと
- 車検の残り期間が3ヶ月以内であること
- 走行距離が年式相応(普通車は1年約1万km、軽自動車は1年約8,000kmペース)であること
この標準状態を基準とし、目の前の車をチェックしながら点数を削ったり足したりしていきます。チェックは目視が原則(分解はしないルール)で、標準より走行距離が少なければ加点、過走行なら減点。爪が引っかかる程度のキズや凹み、車内のニオイ、シートのスレも細かく減点対象です。逆に、後付けできないメーカーオプション(サンルーフなど)はプラス査定になりやすい傾向があります。
営業マンはほぼ全員「中古自動車査定士」の資格を持っている
冒頭の疑問「営業マンは資格を持っているの?」への答えは、「ほぼすべての現役ディーラー営業マンは、JAAIの中古自動車査定士証を持っています」です。入社したての新人(実務経験6ヶ月未満)を除けば、ほぼ100%に近い保有率です。
法律上は資格がなくても査定業務はできるのですが、多くの正規ディーラーでは入社後の教育カリキュラムとして取得が事実上義務付けられています。JAAIの受験には「販売または整備の実務経験半年以上」という条件があるため、新入社員は入社半年間は先輩に同行して実務を積み、半年後に3日間の講習を受けて試験に臨む、という流れです。合格率は約80〜90%と高く、日常的に車に触れている営業マンなら、ほぼ全員がストレートで合格できるレベルです。
ディーラーが全員に資格を持たせるのは、JAAIの査定基準を正しく運用するためと、お客様からの信頼のためです。査定時には、JAAI発行の顔写真付き「査定士証(カード)」を携帯・提示するルールになっています。営業マンの名刺に「中古自動車査定士(小型)」という肩書きがあるか、チェックしてみてください。
査定の現場|プロは10〜15分でここを見ている(5ステップ)

査定士には、見落としを防いで短時間で正確に車を見極めるための厳格なルーティンがあります。基本は次の5ステップで、車をぐるりと1周しながら行われます。
- ①書類・基本情報の確認:車検証と整備手帳を確認。メーターの数値が過去の点検記録と矛盾していないか(メーター改ざんの有無)をチェック。取扱説明書やスペアキーが揃っているとプラス評価
- ②外装のキズ・凹み・歪み:外板パネルを光の反射で斜めから透かすように見て、なだらかな凹みや板金塗装の「ゆず肌」を見抜く。ボンネットとフェンダーの隙間(チリ)が左右で均等かどうかも重要で、ズレていれば大きな衝撃を受けた可能性を疑う
- ③内装・車内:ニオイ(タバコ・ペット・強すぎる芳香剤)は大きな減点。シートのへたりや焦げ穴、ナビ・エアコン・パワーウィンドウの動作も実際に操作して確認
- ④エンジンルームと「骨格」のチェック::車台番号の打刻が車検証と一致するか必ず目視。オイル漏れ、そしてインサイドパネルやクロスメンバーに不自然な曲がりや溶接をやり直した跡がないかライトで照らして確認
- ⑤下回りと足回り:しゃがみ込んで下回りのサビ(豪雪地帯の融雪剤や海沿いの潮風による腐食)、タイヤの残り溝をチェック
修復歴を見抜くプロの着眼点3つ
査定士が最も目を光らせているのが「修復歴(骨格のダメージ)」です。プロは次の3箇所で一瞬で「怪しい」と察知します。
- ネジの頭の塗装:新車はボンネットやドアを固定するネジの頭までボディ同色に塗装されています。塗装が剥げていたり工具の跡があれば「パーツを外した=強い衝撃の可能性」と判断
- ゴム(ウェザーストリップ)をめくった跡:ドア開口部の黒いゴムを少しめくると、スポット溶接の丸い跡が等間隔に並んでいます。事故でピラーを交換していると、この跡が潰れていたり波打っていたりするため一発で見抜けます
- シーラー(接着剤)の硬さと形:ボンネット裏などの鉄板の合わせ目に塗られた樹脂は、ロボットが塗った純正なら硬く均一。手作業で塗り直したものは爪で押すと柔らかく、形も不均一です
私が査定するときに一番注意して見ていたのも、この事故による修復歴でした。修復歴を見落とすと、事故車を事故無しの査定価格で下取りしてしまい、結果は赤字。査定士にとって絶対に外せないポイントなんです。ほかにも、台風の洪水などで水に浸かった車、フロントガラスの飛び石によるひび割れ、雹害によるボディ全体のダメージ、そしてミニバンの大きなリヤハッチの凹み(リヤガラスを脱着してのハッチ交換・塗装が必要になり高額)は、特に注意して減点していました。
査定額を大きく左右する減点項目
「外板価値減点」と「修復歴減点」は天と地の差

最も査定額に影響するのがこの2つです。違いは「ダメージが骨格まで達しているかどうか」。
外板価値減点は、骨格は無傷で、ドア・ボンネット・フェンダーなど外側のパネルに交換や板金塗装の形跡がある場合の減点です。きれいに直っていても、新車時のロボット塗装と後から人が塗った塗装では耐久性や色のなじみに差が出るため減点されます。目安はフェンダー・ドアで1枚あたり約1万〜3万円、ボンネットやルーフだと約3万〜8万円以上になることもあります。
修復歴減点は、いわゆる「事故車」扱いです。フレーム、クロスメンバー、ピラー、ダッシュパネル、ルーフパネル、フロアパネルなど、JAAIが定める骨格9部位に損傷や修復の形跡がある場合に適用されます。骨格は衝突時に乗員を守る最重要部分で、一度折れたり歪んだりすると新車時と同等の強度は取り戻せません。そのため減点は非常に厳しく、基準価格から約15〜50%。150万円の価値がある車なら、修復歴があるだけで30万〜70万円以上安くなるケースがザラにあります。中古車市場では「修復歴あり」として開示義務も生じます。
ひとつ大事な注意点。事故や修理の履歴を隠したくなる気持ちは分かりますが、査定士はプロなので溶接跡やシーラーの不自然さで高確率で見抜きます。契約後に発覚すると「契約不適合責任」を問われ、後から減額請求のトラブルに発展することがあります。事故歴がある場合は最初に正直に伝えるのが鉄則です。
冠水車・タバコ臭・ペット臭は「3大NG」
中古車の買い手が最も嫌がるこの3つには、別の強力な減点ルールがあります。
- 冠水車(水没車):基本価値から30〜50%以上の減点。電子基板のショートやフレーム内部のサビ、消えない悪臭のリスクがあるためです。シートベルトを最後まで引き出した時の泥水のシミ、カーペット裏の泥、ヒューズボックスの奥の砂などで必ず見抜かれます。なお海水に浸かった車は、国内ではほぼ100%廃車扱いです
- タバコ臭:約1万〜4万円のマイナス。天井の黄ばみやシートの焦げ穴があると、さらに別メニューで減点が上乗せされます
- ペット臭:現代の中古車市場ではタバコ以上に嫌がられ、約4万円〜のマイナス。シートに残った毛の量も重要です
過走行の減点と「それでも値がつく」理由
走行距離は年式とのバランスで評価され、基準(普通車1年1万km・軽8,000km)を大きく超えると数万〜数十万円単位の減点になります。ただし10万km、15万kmを超えた過走行車でも、海外で人気の車種(トヨタのSUVやハイエースなど)や部品としての価値があるため、輸出ルートを持つ買取専門店や廃車買取専門店ならしっかり値がつくケースが多々あります。ちなみに、日本車が10万kmを超えても十分走れる理由は車の寿命は本当に10年10万㎞?で解説しています。
フロントガラスの飛び石は「直さずそのまま」が鉄則
1cm未満の小さな飛び石跡ならリペア費用相当の約1万〜1.5万円の減点で済みますが、それ以上のひび割れは車検に通らないため「ガラス全面交換」を前提に約5万〜10万円以上の大減点になります。しかも最近の車はフロントガラス上部に自動ブレーキ用のカメラが付いていて、交換後に「エーミング(カメラの校正)」という専門作業が必要です。昔なら5万〜8万円だったガラス交換が、いまは総額15万〜20万円以上かかるケースが増えており、減点もそれに比例して重くなっています。
ここで損をしない立ち回りをひとつ。自費で直してから査定に出すのは損です。2万円かけてリペアしても、査定額アップは1万〜1.5万円程度で逆ざやになります。また車両保険でガラス交換すると飛び石でも1等級ダウン(事故扱い)となり翌年の保険料が上がるので、保険料の増額分と減点額を天秤にかけて、営業マンに試算してもらうのが確実です。車両保険の考え方は自動車保険、本当に必要な補償とは何か?もあわせてどうぞ。
【マニアック裏話】減点を算出する「秘密の計算式」
ここからは少しマニアックな話。JAAI基準では、減点点数をはじき出す基本数式が決まっています。
減点点数 = √(基本価格 × 修理概算額) ÷ 4.8× 係数 ※小数点以下第一位を四捨五入。1点=約1,000円
「車の本来の価値(基本価格)」「直すのにかかる費用(修理概算額)」「ダメージの深刻さ(部位や修理済みか否かで決まる係数)」の3つを掛け合わせる仕組みです。面白いのはルート(平方根)が入っているところ。もしルートなしで掛け算すると、高級車や大掛かりな修理では減点が天文学的な数字になり、一瞬で査定額がゼロになってしまいます。それを防ぐためにルートで数値をなだらかに圧縮し、「÷4.8」でJAAIの点数スケールに調整しているのです。
この式が意味するのは、「いい車ほど、大きな傷ほど減点は大きくなる。ただし不公平にならないようルールでバランスを取る」ということ。同じ10万円のドア修理でも、100万円の車より300万円の高級車のほうが減点点数は大きくなります。高価な車ほど、一箇所の修理跡による価値の目減りが大きく評価される仕組みです。
タブレット査定の舞台裏|営業マンは何をしているのか

冒頭の疑問「タブレットで何を見ているの?」にお答えします。現在のディーラーでは、タブレット端末での査定が完全に主流です。紙のチェックシートに手書きして、事務所で分厚い価格表をめくりながら電卓を叩く……という昔の光景は、ほぼ見られなくなりました。
- 車検証のQRコードを読み取り:型式・グレード・初度登録が一瞬でアプリに同期されます
- 画面のイラストをタッチして入力:車の展開図が表示され、「左フロントドアに2cmの傷」なら画面の左ドアをタッチして「キズ(小)」を選ぶだけ。先ほどの複雑な計算式は、裏でシステムが自動で正確に処理します
- 写真を撮影して本部に送信:傷や走行距離の写真を査定データに紐付けます
そして最大のポイントがここです。営業マンが入力したデータと写真は、即座にディーラー本部の中古車部門(値付けのプロ)に送信されます。本部は最新のオークション相場や自社の在庫状況をもとに「この車なら〇〇万円まで出してOK」という最終価格をリアルタイムで決定し、営業マンのタブレットに送り返す——つまり、下取り価格を最終的に決めているのは目の前の営業マンではなく、本部の値付け担当なんです。これが「誰がどうやって決めているのか」の答えです。
お客様側にもメリットがあります。昔は査定後30分〜1時間待たされることもありましたが、今は10〜15分の査定後、数分で価格が提示されます。「どこの傷で何点引かれたか」が画面に内訳として表示されるので透明性も高い。写真がデータとして残るため、査定時と入庫時の車の状態を後日比較しやすいのも利点です。
プロの裏話をひとつ。最近は、塗装の厚みを測る「膜厚計(まくあつけい)」というデジタル工具をタブレットとBluetoothで連動させているディーラーもあります。外板を機械でポンと触るだけで「過去に板金塗装されたかどうか」が自動でタブレットに送られる、目視だけに頼らないハイテク査定になっています。
ディーラー下取りと買取専門店、何が違う?
「ディーラーの下取りは買取店より安い」とよく言われます。これは両者のビジネスモデルと、引き取った車の「出口」の違いによるものです。
| 項目 | ディーラー(下取り) | 買取専門店(買取) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 新車を販売すること(下取りは補助ツール) | 車を仕入れて転売すること(仕入れが本業) |
| 査定額の特徴 | 手堅く無難(低め)に抑えられやすい | オークションのリアルタイム相場を反映(競合すると高くなる) |
| 他社メーカー車 | 査定額が伸びにくい傾向 | メーカー問わず人気度で評価 |
| 手続きの手間 | 極めてラク(納車まで乗り続けられ、書類も一括) | 複数店舗との交渉や引き渡し時期の調整が必要 |
ディーラーが「低め」になりやすい理由は2つあります。1つ目は相場変動リスク。新車の納車には数ヶ月かかり、その間お客様は下取り予定の車に乗り続けるため、ディーラーは「納車時の未来の価値」を予測して安全マージンを取らざるを得ません。2つ目は「値引きの調整弁」に使われること。「値引きはこれ以上無理なので、下取りを5万円アップします」という交渉が行われるため、純粋な車の価値と新車の販売条件が混ざった価格が提示されるのです。
では、自分の車は今いくらなのか
ここまで読んでいただいて、「じゃあ自分の車はいくらになるんだ」と思われたのではないでしょうか。
正直に申し上げます。ディーラーの下取り額だけで判断するのは、もったいないことがあります。先ほどお話ししたとおり、下取り価格には本部のプライサーの判断と、その店の在庫事情が反映されます。同じ車でも買取専門店なら評価がまるで変わる、ということは普通に起こります。
ですから私は、「下取り額を知ったうえで、買取相場も一度は見ておく」ことをお勧めしています。両方の数字を持っていれば、営業マンとの交渉で足元を見られることがありません。
ただし、一括査定には覚悟が要ります
ここは元営業マンとして、正直に書いておきます。
一括査定に申し込むと、直後から電話が鳴り続けます。大げさな話ではありません。複数の買取店に一斉に情報が流れる仕組みなので、当然そうなります。「思っていたより大変だった」という声は、私も何度も聞きました。
それでも使う価値はあります。要は使い方です。
- 電話に出られる時間帯に申し込む…深夜や仕事中に申し込むと、着信だけが溜まって疲れます
- 「何社まで」と最初に決めておく…すべてに対応する義務はありません
- 相場を知るのが目的と割り切る…その場で売らなければいけない決まりはありません
この3つを守れば、振り回されずに相場だけを手に入れられます。
下取りと買取、両方の数字を並べてから決める。これが一番損をしない進め方です。
▶ ただし、査定で「値段がつきません」と言われるレベルの車なら話は変わります。鉄の相場が高い今は、廃車買取業者に出したほうが手元に残るお金が多くなります。詳しくは値がつかない車(廃車レベル)の下取り|ディーラーと廃車買取業者どっちが正解⁉をご覧ください。
賢く査定を受けるための2つのコツ
- ①事前に買取専門店で査定しておく:ディーラーに行く前に「現在の純粋な車の価値」を把握しておけば、ディーラーの提示額が妥当かを判断する最強の物差しになります
- ②「支払総額」で交渉する:査定額単体で競わせるより、「新車の値引き+下取り額」を合わせた最終的な手出し額をベースに交渉するのが、ディーラーで最も効果的な方法です
値引き交渉の具体的な進め方は新車値引きの限界額とは?で詳しく解説しています。
まとめ|仕組みを知れば、査定は怖くない
- 査定は営業マンの感覚ではなく、JAAIの全国統一基準による減点方式で行われる
- 営業マンはほぼ全員が中古自動車査定士の資格を持ったプロ
- タブレットの向こうでは、本部の値付け担当がリアルタイムで最終価格を決めている
- 修復歴・冠水・ニオイは大減点。事故歴は隠さず正直に伝えるのが鉄則
- 飛び石は直さずそのまま査定へ。交渉は「支払総額」ベースで
ディーラーの下取りと買取専門店の買取、それぞれの仕組みをよく理解したうえで、ご自分にとってどちらが得かを判断して活用してください。なお、そもそも「手放すときに高く売れる車」を選んでおくという考え方も大切です。車のリセールバリューとは?損しない車選びの極意もあわせてご覧ください。
愛車無料査定も『カーセンサーNet』▶ 親御さんが運転をやめて、車だけが残っているという場合は、査定の前に名義と税金の確認が必要です。親の免許返納をどう切り出すか|87歳の祖父の事故と、返納後に残った車の話に手順を書いています。
▶ 買い替えの理由が「乗り心地の硬さ」や「走行中の音」なら、タイヤを替えるだけで解決することがあります。数百万円を使う前に、10万〜20万円を試す価値はあります。→ ブリヂストンの最高峰タイヤ「レグノ」その実力を元カーディーラー営業マンが解説
この記事を書いた人:元カーディーラー営業マン(現・再雇用サラリーマン)35年以上、カーディーラーの営業マンとして数千人のお客様の車選びをサポート。3年前に定年退職し、現在は同じ会社の別部署で勤務中。現場で見てきたリアルな情報を発信しています。

