親の免許返納をどう切り出すか|87歳の祖父の事故と、返納後に残った車の話

車の維持費
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「そろそろ運転をやめてほしい」——親御さんに対して、そう思っていながら言い出せずにいる方は多いと思います。

言えば角が立つ。かといって放っておくのも怖い。何かあってからでは遅い。分かってはいても、その一言がなかなか出ません。

私は35年以上カーディーラーで営業マンをしてきました。その間、80代・90代のお客様を何人も担当しました。そして私自身の家族にも、同じことが起きました。

この記事では、免許返納をどう切り出すか、そして意外と語られない「返納したあとに残る車をどうするか」という現実的な話を書きます。

87歳の祖父が、事故を起こしました

私の祖父は87歳のとき、事故を起こしました。

祖父自身に怪我はありませんでした。しかし助手席に乗っていた祖母が、腕を骨折しました。

この一行を書くのに、少し時間がかかりました。

自分は無事で、隣に乗っていた連れ合いに怪我をさせてしまう。これは、運転していた本人が一番こたえます。体の怪我より、そちらのほうがよほど重い。祖父の様子を見ていて、そう感じました。

この事故をきっかけに、祖父は免許を返納しました。そして事故を起こした車は、そのまま廃車になりました。

結果だけ書けば数行で終わる話です。でも、そこに至るまでに家族の誰も何も言えなかったこと、そして事故が起きてようやく話が動いたこと——ここが、私がこの記事を書こうと思った理由です。

営業マンとして見てきた、80代・90代のお客様

仕事のほうでも、同じようなことは何度もありました。80歳〜90歳前後のお客様で、こうしたケースは決して珍しくありません。

幸いなことに、私が担当したお客様の中で人身事故にまで発展したケースはありませんでした。ただ、それは運が良かっただけかもしれない、とも思っています。

車を見れば、だいたい分かります

営業マンは、点検や車検でお客様の車を定期的に預かります。だから車の変化が見えるのです。

前回まで無かった傷が増えている。しかも同じ場所を、何度もこすっている。左の前、右の後ろ——擦る位置には、その人のクセが出ます。バンパーの角、ドアミラー、ホイールの縁。この辺りが増えてきたら、正直に言って気になります。

もちろん、傷があるからといって「運転をやめてください」とは言えません。私の立場ではなおさらです。それでも「最近、車庫入れどうですか」くらいの声はかけていました。

家族が気づける、返納を考えるサイン

ご家族が離れて暮らしていると、日々の運転を見る機会がありません。それでも、帰省したときに確認できることがあります。

  • 車の傷が増えている。特に同じ場所を繰り返しこすっている
  • 車庫入れに、以前より時間がかかるようになった
  • よく知っているはずの道で、迷ったり反対方向へ行ったりする
  • 夜間や雨の日の運転を、自分から避けるようになった
  • ブレーキが急になった。停止線を越えて止まることが増えた
  • 信号や標識を見落とす。クラクションを鳴らされることが増えた

そして、私がいちばん確実だと思うサインはこれです。

家族が、その車に乗りたがらなくなる。

「お父さんの運転、ちょっと怖いね」と身内が言い出したときは、もう相当なところまで来ています。一緒に乗る人の感覚は、たいてい正しいのです。

一度、助手席に乗せてもらってください。それが一番よく分かります。

では、どう切り出すか

ここが一番難しいところです。私自身、うまくやれたとは思っていません。だからこそ書いておきます。

「危ないからやめて」は、まず通じません

正論だからこそ通じないのです。

何十年も無事故で運転してきた人にとって、運転は生活そのものであり、同時に「自分はまだ大丈夫だ」という自信の土台でもあります。そこを真正面から否定されれば、誰だって反発します。

営業マン時代に学んだことですが、人は正しさでは動きません。納得したときに動きます。これは商談でも同じでした。

「奪う」のではなく「代わりを用意する」

返納をためらう一番の理由は、「車がなくなったら、どこにも行けなくなる」という不安です。買い物、通院、友人に会いに行く。ここが解決しないまま「やめろ」と言われても、頷けるはずがありません。

だから話す順番は逆にします。先に足を用意してから、返納の話をする。

  • 通院の日は誰かが送る、と決めてしまう
  • 買い物は宅配やネットスーパーに切り替える
  • タクシーを使う前提で、その費用を家族で負担する
  • 自治体のコミュニティバスや、高齢者向けの移動支援を調べておく

車の維持費は、税金・保険・車検・駐車場を合わせると年間で相当な額になります。その分をタクシー代に回せば、思ったより多くの回数に乗れます。この計算を一緒にやってみるのは、有効な説得材料になります。

▶ 車1台にかかるお金の全体像は車の本当の維持費|実は車はとんでもない金喰い虫!?にまとめています。「手放したらいくら浮くのか」を出すときの材料に使ってください。

一度に全部やめなくてもいい

「返納するか、しないか」の二択にすると、話がこじれます。実際には、その間にいくつも段階があります。

  • 夜は運転しないと決める
  • 高速道路は使わないと決める
  • 遠出はやめて、近所だけにする
  • 雨の日は乗らない

こうして少しずつ運転の範囲を狭めていくと、本人も「もう、いいかな」と自分で思える瞬間が来ます。

結局のところ、免許返納は本人が早めに自分で判断するのが一番いいのです。家族にできるのは、その判断ができるように、注意して見守り、声をかけ続けることだと思います。奪うのではなく、本人が決められる状態をつくる。ここに尽きます。

制度の面も、一度調べておいてください

75歳以上の方は、免許の更新時に認知機能検査があります。また一定の違反歴がある場合は、運転技能検査が必要になる仕組みも設けられています。

返納すると「運転経歴証明書」が申請できます。これは身分証明書として使えるほか、自治体や交通事業者によってはバス・タクシー運賃の割引などの特典が受けられる場合があります。「免許がなくなると身分証がない」という不安は、これで解消できます。

ただしこれらの制度や特典の内容は改正されますし、自治体によって大きく違います。実際に手続きされる前に、必ずお住まいの自治体・警察署・運転免許センターで最新の内容をご確認ください。

そして、車が残ります

ここからが、あまり語られない話です。

返納そのものは、手続きとしては終わります。しかし車は、そのまま実家に残ります。そして多くのご家庭で、この車が何年も置きっぱなしになります。

気持ちは分かるのです。長年連れ添った車ですし、誰かがまた乗るかもしれない。とりあえず、そのままにしておこう——そうしているうちに、時間が経ちます。

ですが、置いておく間も、お金は出ていきます。

乗らなくても、自動車税はかかります

これが一番の落とし穴です。自動車税は「4月1日時点で車を登録している人」にかかります。1kmも走らせていなくても、登録が残っている限り毎年課税されます。

止めるには、運輸支局で抹消登録(一時抹消・永久抹消)の手続きが必要です。ナンバープレートを返して、初めて課税が止まります。

自動車保険も、解約や中断の手続きをしなければ引き落としが続きます。「中断証明書」を取っておけば、等級を10年間残せます。ご家族が将来乗る可能性があるなら、これは取っておいたほうがいいです。

置いておくほど、値段は下がります

営業マンとして、はっきり申し上げます。動かさない車ほど、傷みます。

  • バッテリーが上がる——数ヶ月放置すればまず上がります
  • タイヤが変形し、ひび割れる——同じ場所に荷重がかかり続けるため
  • ゴム類・ホース類が劣化する——動かさないほうが早く傷みます
  • ブレーキが錆びて固着する
  • 車検が切れる。切れると公道を自走できません

「そのうち考えよう」と3年置いた車は、3年分の税金を払ったうえで、値段が下がっていることになります。決断を先延ばしにするほど損をする、という構造です。

▶ 車がどこから傷んでいくのかは車の寿命は本当に10年10万㎞?元カーディーラー営業マンが教える本当の寿命で詳しく書いています。走行距離より「年数と使われ方」で決まる部分が大きいです。

名義の確認を、先にしてください

意外と見落とされるのが、名義の問題です。

車検証の所有者欄が誰になっているかを、まず確認してください。親御さんの名義なら、売るにも廃車にするにも本人の書類(印鑑証明・委任状など)が必要になります。

そして、ご本人が亡くなられている場合は相続の手続きが絡みます。戸籍謄本や遺産分割協議書といった書類が必要になり、手間も時間も一気に増えます。

ですから——言いにくいことですが——ご本人が元気なうちに手続きを済ませておくほうが、はるかに簡単です。これは実務として、そうとしか言えません。

なお、ローンが残っている車は所有者がディーラーや信販会社になっていることがあります。その場合は、その会社への連絡が先になります。

走れる車と、走れない車で行き先が違います

残った車をどうするか。ここは車の状態で、はっきり分かれます。

車の状態向いている出口
車検が残っていて、普通に走るディーラーの下取り、または買取専門店。両方の数字を並べて比べる
年式が古い・過走行・車検切れディーラーでは値段がつかないことが多い。廃車買取業者のほうが高くなる場合がある
事故で大きく壊れている・動かない引き取りに来てもらえる業者を探す

ここで知っておいていただきたいのは、ディーラーが「0円です」と言うのは、意地悪でも何でもないということです。ディーラーは中古車として売れるかどうかで値段を見ますし、解体の設備も持っていません。だから値段の出しようがないのです。

一方で、鉄やアルミなどの資源として見る業者は、まったく別のものさしを持っています。同じ車でも、聞く相手によって答えが変わる——これが実際のところです。

ディーラーで値段がつかなかった車をどうするかは値がつかない車(廃車レベル)の下取り|ディーラーと廃車買取業者どっちが正解⁉に詳しくまとめました。なぜディーラーは0円にしかできないのか、という構造の話も書いています。
まだ普通に走る車なら下取り価格の謎|ディーラー査定の仕組みを徹底解説のほうをご覧ください。査定がどう決まるかが分かります。

まとめ

長くなりましたので、整理します。

  1. 免許返納は、本人が早めに自分で判断するのが一番いい。家族にできるのは、注意して見守り、声をかけ続けること
  2. サインは車に出る。同じ場所の傷が増えたら要注意。そして家族が乗りたがらなくなったときは、もう相当なところまで来ている
  3. 「危ないからやめて」では動かない。先に足を用意してから話す。夜だけやめる、遠出だけやめる、という段階的な方法もある
  4. 返納しても車は残る。登録が残っていれば自動車税は毎年かかり、置くほど値段は下がる
  5. 名義の確認は早めに。本人が元気なうちのほうが、手続きははるかに簡単

祖父の話に戻ります。

あの事故がなければ、祖父はもうしばらく運転を続けていたと思います。誰も止められなかったからです。そして止められなかった理由は、「まだ大丈夫だろう」と、家族みんながどこかで思っていたからでした。

祖母の腕は治りました。それでも、あの一件は今も家族の中に残っています。

私は今63歳です。いずれ自分が言われる側になります。そのときに素直に頷けるかどうか、正直まったく自信がありません。だからこそ、自分の代で同じことを繰り返さないようにと思って、この記事を書きました。

どうか、事故が起きる前に話をしてみてください。

※本記事の制度に関する内容は執筆時点のものです。認知機能検査・運転技能検査・運転経歴証明書の特典などは改正や地域差がありますので、お住まいの自治体・警察署・運転免許センターで最新の情報を必ずご確認ください。相続を伴う手続きについては、専門家にご相談ください。


この記事を書いた人:元カーディーラー営業マン(現・再雇用サラリーマン)35年以上、カーディーラーの営業マンとして数千人のお客様の車選びをサポート。3年前に定年退職し、現在は同じ会社の別部署で勤務中。現場で見てきたリアルな情報を発信しています。

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