日本のインフレと車、本当に新車は必要なのか?元カーディーラー営業マンが深掘り
「最近はおにぎりも200円するなぁ」「物価は爆上がりだけど給料上がんないなー」「本当に日本は今好景気なの?」
デフレからインフレへ。1ドル110円平均から160円超へ。ここ5年ほどで物価は大きく変動しました。思えば、牛丼が280円、ハンバーガーが65円だった時代もありましたね。あれが「失われた30年」のデフレの象徴だったとすれば、今は約30年ぶりのインフレの時代です。
そして自動車も、例外ではありません。物価上昇に伴い収入も上がれば問題ないのですが、なかなかそう上手くいかないのが世の中です。このインフレの時代に、爆上がりした新車を買うことは多くの人にとってどうなのか——元カーディーラー営業マンの視点で深掘りしていきます。
▶「楽天カードについてはこちらの記事で詳しく解説しています」
楽天カードは年会費無料
この5年で家計に何が起きたか|給料の伸びが物価に追いつかない
まず車の話の前に、家計全体を取り巻く変化をざっくり整理します。一時期3%を超えていた物価上昇率は、2026年に入って1.5%前後まで落ち着いてきました。ただし勘違いしてはいけないのは、「上昇率が下がった=安くなった」ではないということ。上がりきった高い水準から、さらにじわじわ上がり続けている状態です。
| 項目 | 5年前(2021年頃) | 現在(2026年) |
|---|---|---|
| 会社員の年収(中央値) | 約350万円 | 約370万円(+約6%) |
| 住宅の価格(同じ仕様) | 約4,000万円 | 約5,000万円(+約25%) |
| 住宅ローン固定金利 | 1.3%前後 | 3%台 |
| 新車の平均購入価格 | 200万円台前半 | 約331万円(軽でも平均196万円) |
「記録的な賃上げ」というニュースの恩恵を強く受けているのは主に大企業で、雇用の約7割を占める中小企業では給料を上げたくても上げられないのが実情。真ん中にいる多くの会社員の実感は、「給料は少し増えたが、物の値段の増え方には全く追いつかない」です。
新車平均331万円の時代|なぜここまで高くなったのか
車の値上がりには、大きく3つの理由があります。
- ① 原材料費と円安のダブルパンチ——鉄鋼、アルミ、バッテリーに必要なレアメタルなどが世界的に高騰。さらに歴史的な円安で輸入部品のコストが膨れ上がりました
- ② ハイブリッドの標準化——モーターと高価なバッテリーを積むハイブリッド車は、ガソリン車よりどうしても数十万円高くなります
- ③ 安全装備の義務化——自動ブレーキやバックカメラなど、5年前なら「上位グレードのオプション」だった装備が標準になり、ベース価格を押し上げています
実際の車種で見ると、変化は強烈です。N-BOXクラスの軽でも、ナビや安全オプションを付ければ総額220万〜250万円超が珍しくない。ファミリーミニバンのヴォクシークラスは、ハイブリッドと最新装備を入れると総額430万〜500万円超。私も先日RAV4のホームページを見て、最上位モデルが600万円超の大台に乗っているのを見て衝撃を受けました。私の感覚では、RAV4は「若者でも手が届く250万円前後のカジュアルなSUV」だったのですから。
「新車が高いなら中古車を」と考えたいところですが、新車の値上がりに引っ張られて中古車相場もこの5年で大きく上がりました。「5年落ちなのに、新車のときとほぼ同じ値段」という現象があちこちで起きています。
それでも街に新車が溢れている「カラクリ」
「みんな、そんな高い車をどうやって買っているの?」——答えは二極化と、日本の自動車ローン特有の仕組みにあります。
共働きで世帯年収の高い層や経営者層は、600万円の車も普通に買えます。しかしそれ以外の多くの人が使っているのが「残価設定型ローン(残クレ)」です。600万円の車でも「5年後の下取り価値」を差し引いた分だけを分割で払うため、月々3万〜4万円の支払いで最新の高級SUVに乗ることができる。つまり街を走るピカピカの新車の多くは、「買った」というより「価値の高いうちだけ定額で借りている」に近いのです。残クレの仕組みと注意点は残クレとカーリースの記事で詳しく書いています。

世界から見たら「10年10万kmで乗り換え」は贅沢すぎる?
ここで一つ、面白い視点を。日本人の多くは「10年・10万km」を車の替えどきと考えていますが、これは世界から見るとかなり特殊です。
街を走る車の平均年齢(平均車齢)は、日本が約9.1年なのに対し、アメリカは約12.8年、フランスも約11年。欧米では20万〜30万km走っても「現役バリバリ」で、傷や凹みは直しながら乗り潰すのが当たり前。彼らからすれば10万kmは「慣らし運転が終わってこれから本番」の距離で、まだ元気に走る10年落ちの車を「古いから」と手放す日本人は、贅沢すぎると驚かれます。
ただ、日本人が浪費家というわけではありません。13年を超えると自動車税・重量税が上がる仕組み、10万km前後で消耗部品の交換費用がかさむ車検制度、10年落ちに厳しい国内の査定相場——「乗り続けるほど損に感じる仕組み」に背中を押されている面が大きいのです。そして皮肉なことに、日本人が手放した10年10万kmの車は海外に輸出され、現地で「新品同様の極上車」として、さらに20万km、30万kmと大切に乗られています。このあたりは「車の寿命は本当に10年10万km?」の記事で詳しく書いた通りです。
で、本当に新車は必要なのか?|元営業マンの答え
さて、本題の結論です。
純粋に「移動の道具」としてだけ考えるなら、答えははっきりしています。状態の良い100万〜200万円の中古車(特に壊れにくさに定評のある国産車)を買って長く乗り潰すのが、経済的には圧倒的な正解です。新車と比べて浮いたお金で、家計はずっと楽になります。予算を抑えたいなら新古車という選択肢もあります。
でも——35年以上新車を売ってきた人間として、あえて言わせてください。車は「損得の計算」だけで選ぶものではありません。
誰も座っていないシートの匂い。最新の安全装備で家族を乗せる安心感。自分で選んだ色の車が納車される日の高揚感。そして、子供が小さくて一緒にドライブやキャンプに行ってくれる期間は、人生の中でほんの10年ほどしかありません。『DIE WITH ZERO』という本では、こうした体験を「思い出の配当」と呼びます。若いときの体験は、その後の人生で何度も思い出して幸せになれる配当を生み続ける——お金を貯め込んだまま歳を取っても、あの時の思い出は後から買い戻せないのです。
ただし、条件が一つだけあります。「最悪の事態になっても、人生が破綻しない身の丈の範囲」であること。毎月のローンで家計がギスギスし、教育費や老後資金の計画が崩れるようなら、それは豊かさではなく危険な見栄です。残クレを使うなら、仕組みとリスクを理解した上で。車にかかるお金の全体像は「車にかかる一生涯のお金」の記事で確認してみてください。

まとめ|「何が合理的か」を知った上で、自分の答えを選ぶ
- この5年で新車は平均331万円まで高騰。給料の伸びは物価に追いついていない
- 街に新車が溢れて見えるのは、二極化と残クレという仕組みの効果
- 経済合理性だけなら「良質な中古車を乗り潰す」が正解
- それでも新車には、お金の計算を超えた「思い出の配当」がある。条件は破綻しない身の丈であること
インフレの時代、大事なのは「新車か中古か」の正解探しではなく、何が合理的かを知った上で、自分の家計と価値観で選ぶことだと私は思います。汗水垂らして働いて得たお金を、自分と家族が本当にワクワクするものに使う——それは、この厳しい時代を生きるサラリーマンの最高の特権ですから。楽しいカーライフをお過ごしください。
『DIE WITH ZERO』が教えてくれること
「富の最大化ではなく、人生の充実度(体験)を最大化せよ」
著者ビル・パーキンスは、お金をただ貯めて死ぬことを「人生の時間を無駄に切り売りした大失敗」だとバッサリ切り捨てます。
- 思い出の配当(メモリー・ディビデンド): 彼が言うには、若い時にした体験は、その後の人生で何度も思い出してハッピーになれる「配当」を生み出し続けます。
- タイムバケット(時間の賞味期限): 「子供と一緒に新車で遠出する」「新築の家で子供を育てる」という体験は、その年齢、そのライフステージ(タイムバケット)でしか100%楽しむことができません。80歳になってから新車を買っても、当時と同じ喜びは得られないのです。
「移動だけなら中古車で十分」という合理性を超えて、今しかできない体験にお金を交換する行為を、この本は「これ以上ない正しいお金の使い方」として激賞しています。
『アート・オブ・スペンディングマネー』が教えてくれること
「お金をどう使うかは『芸術(アート)』であり、自分にとっての自由と幸せのために使え」
ベストセラー『サイコロジー・オブ・マネー』の続編として出た本書は、「貯め方」ではなく「使い方」の心理を鋭く解き明かしています。
- 実用性 vs ステータス:ハウセルは、「他人に見せびらかすため(ステータス)」の支出はすぐ飽きて不幸になるが、「自分の生活の快適さや独立(実用性や自由)」のために使うお金は、喜びが長持ちすると言っています。
- 表計算シートは感情を気にしない:合理的な数字(中古車が一番コスパが良いという計算)だけで人生を決めるのは、人間の感情を無視した生き方です。自分が心から満足し、明日への活力になるのであれば、それは「一見、浪費に見える素晴らしいお金の使い方」になります。
つまり、「他人に自慢したいから600万のRAV4に乗る」のは危険な浪費ですが、「自分や家族の移動を最高に快適で安全にしたいから買う」のは、この本が言う「真に豊かなお金の使い方(アート)」に該当します。
💡 2冊が共通して言っている「究極の結論」
世の中には「一円でも多く資産を増やす方法、r > g の法則(不等式)攻略法」を説く本は溢れていますが、この2冊は真逆の視点をくれます。
「お金は、あなたという人間を幸せにするための『ただの道具』に過ぎない」
今回お話しした「あえて新車や新築を選ぶ」という選択は、金融の計算式(数字の損得)だけで見たらマイナスかもしれません。しかし、『DIE WITH ZERO』が言う「今しか得られない最高の思い出の配当」であり、『アート・オブ・スペンディングマネー』が言う「自分の感情を豊かにするための自立した支出」そのものです。
この記事が皆様の参考になれば嬉しいです。
▶ 関連記事:トヨタ車はなぜ壊れないのか?「壊れない伝説」の4つの理由を元カーディーラー営業マンが解説
この記事を書いた人:元カーディーラー営業マン(現・再雇用サラリーマン)35年以上、カーディーラーの営業マンとして数千人のお客様の車選びをサポート。3年前に定年退職し、現在は同じ会社の別部署で勤務中。現場で見てきたリアルな情報を発信しています。

