「電気自動車は日本では必要ないね」
「充電に時間かかるし、何より航続距離が心配」
「わざわざ高いEVを買わなくても、ハイブリッドで十分」
——こんな声が多く、日本では、さすがのテスラもBYDも苦戦している様子です。世界的に「EVシフト失敗」のニュースが流れた後、今年に入ってから、何やら日本のEV事情に少し動きが出てきました。
こんにちは。35年以上カーディーラーで営業マンをしてきた、再雇用サラリーマンです。先日「2026年1月のSUV販売台数ランキング」の記事を書いたところ、対前年比6604.0%という桁違いの数字を出している車が9位に入っていました。販売台数1,651台に対して前年比6604.0%——えっ、去年は数台しか売れていないのに、今年はランキング9位? この謎解きから始めていきましょう。
▶ みんな大好きSUVについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
謎の「前年比6604%」、bZ4X激増の真相
結論から言うと、国の補助金(CEV補助金)の増額が、トヨタbZ4Xの登録台数が激増した非常に大きな要因の一つです。補助金制度の変更と、それに合わせたトヨタの戦略が完璧に噛み合いました。主な要因を3つに分けて解説します。
① 国の補助金が「130万円」へ大幅増額(最大の起爆剤)
2026年1月、政府はEV普及をさらに後押しするため、国のCEV補助金の上限を従来の最大90万円から最大130万円へ、一気に40万円も増額しました。bZ4Xはこの最高額「130万円」の対象となったため、ユーザーの実質負担がガクンと下がり、「これならガソリン車やハイブリッドと変わらない価格で買える」というお得感が一気に強まったのです。
② 前年(2025年1月)のベースが極端に低かった
前年比6604%という異常な倍率になったのは、「前年にほとんど売れていなかったから」という算数上の理由もあります。bZ4Xは発売当初、サブスク(KINTO)や法人リース限定でのスタートで、一般ユーザーが気軽に買える状態ではありませんでした。分母(前年の台数)が極端に少なかったため、一般販売が本格化したことでパーセンテージが跳ね上がったのです。
③ 一部改良による商品力アップ
補助金増額のタイミング前後で、bZ4X自体も大幅に改良されました。急速充電の性能向上や、冷間時のバッテリー加温性能の改善など、EVの弱点が克服され、車の魅力が上がっていたところに130万円の補助金が降ってきた形です。
まとめると——「車がマイナーチェンジで魅力的になった」ところに「2026年1月から補助金が130万円に大増額」という超強力な追い風が吹き、元々少なかった台数が一気に弾けた。これが「6604%」の真相です。

CEV補助金、何がどう変わった?
国のCEV補助金は令和7年度補正予算で見直され、普通車のEV(BEV)は上限が従来の90万円から最大130万円へ増額されました。2026年1月登録分から反映されています。補助額は登録日によって異なるため、同じ車種でも時期で金額が変わる点に注意が必要です。
普通車EVと軽EVの補助金の推移
| 時期 | 普通車EV | 軽EV | 補足 |
|---|---|---|---|
| 2023年4月ごろまで | 上限65万円(条件付85万円) | 上限45万円(条件付55万円) | 旧制度の代表的水準 |
| 2023年11月以降 | 最大85万円 | 最大55万円 | 2024年度の案内水準 |
| 2025年度まで | 上限90万円 | 58万円 | 令和7年補正前の基準 |
| 2026年1月以降(新基準) | 最大130万円 | 58万円据え置き | 普通車EVのみ大きく増額 |
普通車EVは「65万→85万→90万→130万円」と上がってきた一方、軽EVは「45万→55万→58万円」と控えめな伸び。近年は普通車EVの支援強化がより大きいのが特徴です。なお、補助額は登録日と車種ごとの上限で決まり、自治体の補助金は国とは別に上乗せされる場合があります。
充電設備・V2Hなどへの補助もある
| 設備 | 何に使うか | 補助の出方の目安 |
|---|---|---|
| 充電設備 | EVを家や施設で充電する設備 | 普通・急速充電器、集合住宅向け設備などが対象になることも |
| V2H | EVの電気を家へ、家の電気をEVへ送る設備 | 機器・工事それぞれに上限が設定されることがある |
| 外部給電器 | EVの電気を家電や機器へ使う装置 | 公共施設・災害拠点・個人宅などで対象になる場合あり |
V2Hは個人宅向けで機器に上限50万円、工事に上限15万円の枠が示されています。自治体によってはEV本体だけでなくV2Hや充電設備にも独自補助を出すことがあり、車両補助とは別に設備補助を重ねられることがあります。予算上限に達すると受付終了になるため、早めの確認が重要です。
2026年1月以降の補助金 早見表
| 車種 | 2026年1月以降の上限 | 2025年までの上限 | 変更点 |
|---|---|---|---|
| 普通車EV | 最大130万円 | 最大90万円 | 40万円増額 |
| 軽EV | 58万円 | 58万円 | 据え置き |
※実際の交付額は車種ごとの評価や加算の有無で変わるため、同じ普通車EVでも満額になるとは限りません。
注目株|ホンダ Super-ONE と N-ONE e:
この補助金制度を象徴するのが、ホンダの新型EV「Super-ONE」と「N-ONE e:L〈FF〉」です。まず、補助金を適用した価格を比較してみましょう。
| 項目 | Super-ONE | N-ONE e:L〈FF〉 |
|---|---|---|
| 車両本体価格(税込) | 3,390,200円 | 3,198,800円 |
| 国のCEV補助金 | 1,300,000円 | 580,000円 |
| 補助金受給後の参考価格 | 2,090,200円 | 2,618,800円 |
注目は実質価格の逆転です。元の本体価格はSuper-ONEの方が約19万円高いのに、補助金が満額130万円適用されるため、実質価格はSuper-ONEの方が約52.8万円も安くなります。さらに東京都など自治体によっては、どちらも追加で60万円〜の補助金が上乗せされます(※国の補助金は予算上限に達し次第、受付終了)。
主要諸元の比較
この2台は同じ29.6kWhのバッテリーを積みますが、「N-ONE e:」が軽自動車規格なのに対し、「Super-ONE」は車幅や全長を拡大した登録車(普通車)規格で、走りのキャラクターやサイズ感が大きく異なります。
| 項目 | Super-ONE | N-ONE e:L〈FF〉 |
|---|---|---|
| 車両規格 | 登録車(普通車・5ナンバー) | 軽自動車 |
| 全長×全幅×全高 | 3,580×1,575×1,615mm | 3,395×1,475×1,545mm |
| ホイールベース | 2,520mm | 2,520mm |
| 車両重量 | 1,090kg | 1,030kg |
| 乗車定員 | 4名 | 4名 |
| バッテリー容量 | 29.6kWh | 29.6kWh |
| 航続距離(WLTC) | 274km | 295km |
| モーター最高出力 | 70kW(BOOST時)/47kW | 47kW(64PS) |
| 最大トルク | 162N・m | 162N・m |
| タイヤサイズ | 15インチ | 14インチ |
| 最小回転半径 | 4.5m | 4.5m |
- 安定感・走り(Super-ONEの強み)…全幅が100mm広がり15インチタイヤを採用。踏ん張り感が増し、高速走行の安定性が向上。専用「BOOSTモード」で最高出力を70kWまで引き上げられる。
- 航続距離(N-ONE e:の強み)…バッテリーは同じ29.6kWhだが、車体が小さく60kg軽いため航続距離は295kmと少し長い(Super-ONEは274km)。
街乗り中心で航続距離や軽の税制メリットを活かすならN-ONE e:、補助金でおトクにワンランク上のサイズと走りを楽しむならSuper-ONEがおすすめです。

なぜホンダはSuper-ONEに割安感を持たせたのか
この圧倒的なお得感は、ホンダが狙い澄まして仕掛けた戦略(プライシング)と言えます。背景にある狙いを紐解きます。
狙い1:軽の枠を超えた「上のクラス」へ引き上げる
N-ONE e:は軽EVの王者「日産サクラ」をライバルに開発されました。しかしホンダは「軽の枠に縛られず、もっと走りが楽しく満足度の高いEVに乗ってほしい」と普通車規格のSuper-ONEを企画。もし「普通車の方が順当に高い」状態なら、多くの人は慣れた軽を選びます。そこで実質価格を逆転させ、ワンランク上に目移りさせるという強烈な動機付けを仕掛けたのです。
狙い2:130万円補助金の要件をフル活用した値付け
CEV補助金は、バッテリー容量だけでなく省エネ性能や付加価値(充電・給電機能、安全装備など)で点数化され支給額が決まります。ホンダは最初から「130万円満額をもぎ取る」前提でスペックを構成。BOOSTモード搭載や、仮想有段シフト・アクティブサウンドなど趣味性の高い装備を付与し、「高付加価値な次世代小型EV」として認めさせました。結果、339万円の上質な車を、実質209万円という破格で提供するマジックを成功させたのです。
ユーザーからすれば「軽を買う予算で、それより50万円以上安く、パワフルでワイドな普通車が買える」わけですから、この割安感に引っかからない手はありません。まさにホンダの戦略勝ちです。
これからの日本のEV市場は「二極化」する
ここ数年の日本のEVは「日産サクラ」を筆頭に軽が牽引してきましたが、潮目が変わりつつあります。今後は「軽EV」と「コンパクト登録車(普通車)EV」の2つが市場を二分していく可能性が高まっています。
軽EVが主力であり続ける理由
軽自動車は日本の市場全体の約4割を占め、地方では「1人1台」の生活の足。日本のドライバーの約9割は1日の走行が50km以下で、軽EVの航続距離(180〜295km程度)は街乗り・買い物・通勤に完全にフィットします。地方の一戸建てなら「夜に自宅で挿しておくだけ」で運用が完結。サクラに加えN-ONE e:、N-VAN e:、スズキ・ダイハツの新型軽EVが出揃い、「生活密着型EV」の地位は揺るぎません。
急浮上する「コンパクト登録車EV」
一方、普通車サイズのコンパクトEVが猛烈にシェアを拡大中。bZ4Xの激増やSuper-ONEの先行予約7,000台超がその象徴です。国が普通車EVの補助金上限を130万円に引き上げた一方、軽乗用EVは最大58万円。この「70万円以上の差額」が地殻変動を起こし、普通車EVの実質価格が200万円台前半まで下がって軽の上位グレードと逆転する現象が起きています。
ライフスタイルで綺麗に二極化
| タイプ | 主なターゲット層 | 代表的な車種 |
|---|---|---|
| 軽EV | 地方のセカンドカー、街乗り・買い物メイン、維持費を極限まで抑えたい層 | 日産サクラ、ホンダN-ONE e:、スズキeWX など |
| コンパクト普通車EV | 1台で全てこなしたい層、高速も頻繁に乗る層、補助金の恩恵を最大化したい層 | ホンダSuper-ONE、BYDドルフィン/シーガル、日産リーフ など |
軽自動車大国の日本で軽EVが中核を担うのは間違いありませんが、補助金政策が続く限り、Super-ONEのような「割安感のあるコンパクト普通車EV」が並び立つ主役になりそうです。
なぜ国は普通車EVだけ「130万円」にしたのか
国が普通車EVの上限を130万円に引き上げ、軽を58万円に据え置いた背景には、国としての明確な戦略があります。主な理由は3つです。
- 普通車EVの価格高騰を抑え、一般層へ普及させるため…軽EVは元々200万円台後半で売れる地盤があった一方、普通車EVは400〜700万円台と高額。「2035年までに新車100%電動化」には販売ボリュームの大きい普通車のEVシフトが不可欠で、ハードルを下げるカンフル剤として巨額補助を投入。
- 「ファーストカー」として使えるEVを増やすため…軽EVはセカンドカー需要が中心。長距離・高速・家族全員の移動を1台でこなす主力の普通車をEVに置き換えてこそ、CO2排出を大きく減らせる。
- 日本の自動車産業の国際競争力を守るため…補助金を一律にすると税金が海外製EVの購入資金として流出しかねない。そこで「充電インフラ整備への貢献度、災害時の給電機能、整備体制」などを点数化し、国内に貢献するメーカーの高付加価値な普通車EVに満額が出るよう設計した。
つまり「軽EVは放っておいても売れるが普通車EVは高すぎて売れない」「温室効果ガス削減にはメインの普通車の電動化が必須」「制度を工夫して日本の自動車産業を守りつつ充電インフラを増やしたい」——これが、国が普通車EVに130万円という破格の補助金を出す理由です。

国の思惑とメーカーの「ウルトラC」
ところが面白いことに、国が「本格的な普通車を普及させるぞ」と作ったルールを、メーカーが「軽ベースの普通車」というウルトラCでハックし、ユーザーがそこに殺到しているのが今の状況です。なぜこの「思惑のズレ」が起きたのか、3つのポイントで見ていきます。
1. 「車の区分」のルールを突いたメーカーの逆襲
国は「登録車=最大130万円」「軽自動車=最大58万円」と法律上の区分で線引きしました。想定していた130万円の対象は、bZ4Xや日産アリア、海外勢の本格SUVなど「大きくて高い普通車」だったはず。しかしホンダは「軽(N-ONE)のプラットフォームをベースに、フェンダーを広げバンパーを伸ばして登録車基準を満たせば130万円の対象になる」という盲点を突きました。結果、国が「高い普通車向け」に用意した130万円が、339万円のコンパクトカーに満額適用されたのです。
2. ユーザーの「最も賢い選択」として定着
- bZ4Xなど大型EV:130万円引かれても、まだ400〜500万円台でハードルが高い
- サクラ・N-ONE e::58万円引きで実質200万円台半ば
- Super-ONE:130万円引きで実質209万円(東京なら149万円)
「日本で一番扱いやすいサイズ」で「一番実質価格が安い」となれば、補助金がここに集中するのは必然。実際、Super-ONEは発表直後から7,000台以上の先行予約が殺到し、国の予算の多くがこのクラスに流れ始めています。
3. 他メーカーも追随し、一大ジャンルになる可能性
この手法が大成功したことで、ライバルも黙ってはいないはず。軽EVで独走する日産・三菱が「サクラ」を一回り大きくした登録車コンパクトEVを仕掛けてくる可能性は十分あり、スズキやダイハツも同様の戦略をとるかもしれません。
今後の懸念:税金が当初の想定と違う「安価なコンパクトカーの大幅値引き」に大量消費されるため、国は次年度以降、補助金の支給要件をさらに厳しくする(車両重量やバッテリーサイズ、車格による細分化など)可能性が高いです。「軽ベース普通車で130万円満額」の恩恵を一番美味しく受けられるのは、まさに今(2026年)がピークかもしれません。
まとめ
「日本にEVは要らない」と言われ続けてきましたが、2026年1月の補助金大増額(普通車EV最大130万円)が、市場の空気を確かに変え始めました。bZ4Xの前年比6604%という数字は、その地殻変動の象徴です。
そしてホンダSuper-ONEのように、制度を賢く活用して「軽の予算で買える普通車EV」が登場し、市場は軽EVとコンパクト普通車EVへと二極化していきます。補助金は予算上限に達すると終了し、要件も今後厳しくなる可能性が高いので、EVを検討中の方は登録時期と条件を必ず確認してくださいね。この記事が参考になれば嬉しいです。楽しいカーライフをお過ごしください。
*「カーセンサーについてはこちらの記事で詳しく解説しています」
この記事を書いた人:元カーディーラー営業マン(現・再雇用サラリーマン)35年以上、カーディーラーの営業マンとして数千人のお客様の車選びをサポート。3年前に定年退職し、現在は同じ会社の別部署で勤務中。現場で見てきたリアルな情報を発信しています。

